第11回 アウトサイダーアート展「メタモルフォーシス」ジュディス・スコット
資生堂ギャラリーにて
東京都中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階
2001年6月20日~7月29日
画廊のなかへ足を踏み入れると、棒のようなものを布や糸でぐるぐる巻きにしたものが、何本もぶらさがっていた。ダイナミックなのに極めて繊細で、色とりどりの糸や布が複雑にからみあった色彩とあたたかな形態が美しく、この展覧会は「当たり」だなと直感した。
ただその造形物のひとつひとつが、ぐるぐる巻きにされた芯の部分に、作者の魂が宿っているように感じる。どうしてそう感じるのかは、よくわからないけれど。
実はこれらの作品の作者であるジョディス・スコットは、ダウン症と診断されて長いあいだ非人間的な施設に入れられていた。アートがなにかということすら、知らなかったのだという。そのことを、ようやく展示の最後にたどり着いてから知った。
しかしそういうバックグラウンドを知っても知らなくても、私はきっと好きな作家だなと思って家路に着いただろう。
ただ背景を知ると、今まで疑いもしなかった美術の歴史に、別の側面があることを思い知らされる。
それは、芸術の歴史の流れとは無関係に、いつでもどこにでもあらわれ、多くの人の心を揺さぶるような才能について。自分が芸術作品を創っているなどとも思わず、多くの芸術家が苦労して努力し、ようやく手に入れることができる色彩感覚・構成力を、いつのまにか用いて、まわりの空気を動かす作品を創ってしまう。さらに生きることと芸術活動が、必然的に結ばれている。
時の流れのどこへ置かれたとしても、まったく揺らがない剥き出しの才能。そういうものが確かにあるのだなぁと。
彼女の作品は、偶然に導かれて生まれた。もし彼女が、一卵性双生児でなかったなら、国によって強制的に収容されていた施設が、双子の妹へ彼女を渡さなかったなら、もし彼女がクリエイティブ・グロウス・アートセンターに出会わなかったなら、いま私たちが作品を、こうやって見ることはできないのだから。
作品からダイレクトに受け取る感情と、複雑なバックグラウンドから導かれるいろいろな美術についての考え。そういうものを引き出してくれたことを含めて、いつまでも記憶に残る展覧会。