明るい部屋―写真についての覚書
タイトルの美しさもあって、あまりにも有名なロラン・バルトの写真論。
時を経た分、写真のポジションが、今とは違っているかもしれない。写真を用いての表現が、あまりにも多様になってしまったこの頃だから。しかしそういうささいな部分が、まったく気にならないほど、妙に共感しながら読み進めた。
例えば、写真という映像表現の「新しさ」と同時にある「古めかしさ」について。その後に映画などの映像媒体が出てきたからというのではなくて、確かに写真に撮って紙に焼かれたものは、その瞬間から古めかしくなるように感じるから。
そして第2章に入ると、彼のようなスーパーインテリが、亡くなった母への思い出を、感傷的に語る部分があって驚かされた。でもその感傷は、アルバムをめくって写真を観るとき、感覚がリアルに呼びおこされる状態に、とても良く似ているのではないだろうか。
読み終えて本を閉じたとき、単なる読書にはとどまらない、不思議な体験をしたと感じた。ただ普通に書いたのでは、絶対に辿りつけない写真の本質に、あの手この手で、ぐんぐんと迫っていく。
たとえ報道の写真であっても、本当か嘘かわからなくなってきた昨今、読んで良かったと心から思える本。