-強制再起動-
於)レントゲンヴェルケ
アート・コンプレックス北館3F
展示アーティスト:フロリアン・クラール、長谷川ちか子、桑島秀樹、長塚秀人、小川信治、サイモン・パタソン、笹口数、田中偉一郎、渡辺英弘
四月の末、六本木ヒルズができたことで、だいぶ印象の変わってしまった六本木の芋洗い坂にできたのが、アート・コンプレックス『complex』。
昨年末にクローズされた佐賀町食糧ビルの想いを継ぎ、ひとつのビルごとアート発信地にしようという試みで、建物内には、アートギャラリーだけではなく、カフェバーや建築・アートスタジオもある。中央にあるふたつの階段を境に、右と左にスペースが分かれるちょっとおもしろい空間。
右の階段を選んで、通称北ウィング3Fまで階段をのぼると、そこにあるのがギャラリー「レントゲンヴェルケ」。扉にはプルトニウムのマーク。危険、危険?
しかも展覧会のタイトルは『ー強制再起動ー』。
ガラスに文字を小さく刻印した作品からはじまって、実際にある風景なのに不思議な印象が漂う写真、毒虫特有の美しくカラフルな柄を横に長い宝石箱のようなものにコレクションした作品等、強い個性を持つバリエーション豊かな作品群に触れ、タイトルに負けないインパクトを受けたところで、最後の作品が待っていた。
床に直置きされたホームビデオの小さな画面を、屈み込んで覗くと、窮屈さと引き換えに「鳩の視点」を手にすることができるという作品。
タイトルもズバリ「鳩命名」(だったと思う…)。鳩の視点まで下りたカメラが、どれも同じに見える鳩の一群から、一羽を選んでクローズアップする。するとそこに、作者が勝手につけた名前のキャプションがあらわれる。
その名前というのが、一羽ずつ特徴を見事に捉えているからおかしい。なるほどこの子は若いお嬢さん、こっちはおばあさんかな、うーんこれは確かに男性だ。どれもいかにもありそうな名だけど、平凡すぎることもなく…。
するとそこに一羽のカラスが! つけられた名は、カール・シュミットとかなんとか。とにかく西洋人の名前。確かにカラスのシャープさは、頭のなかで自動的に西洋人の像を描く。そんな風に感じるのは、鳩の細かな特徴を、じっと観察しつづけていたから?
抗いがたい命名の誘惑。そんなアホなと頭を振っても、もはや切り離せなくなっている固定イメージの数々。圧倒的なナンセンスさで、思い出すとついいまも笑ってしまう。