江戸の占い
大野 出 著
河出書房新社
落語を聞いていると、話の脇役として、たまに「辻占い」が出てくる。現代と同じように江戸時代でも、占いは庶民から武家まで広く楽しまれた娯楽のひとつだったそうだ。いや、それどころか、江戸時代の方が最盛期?
それにもかかわらず、今も昔もこの分野が、学問でまじめにとりあげられることはあまりない。『江戸の占い』は、その分野にきちんとスポットを当てることで、今までとは少し違った角度から、時代の雰囲気や風俗を浮かび上がらせようとした本。
当時のおみくじの絵柄や文面、今なら差別問題になりかねない(?)人相占いなど、たくさんの図版が用いられていて、それを眺めていると、確かに著者が望んだように、江戸のひとつの側面を体験できる。今と同じでかなり流行ったらしい安部清明占いの項目では、当時と同じ占いが実際にできたりもする。
それにしても、江戸時代に流行した占い(夢占い・顔相占い・おみくじ…などなど)で用いられた「テクニック」は、驚くほど今の占いに引き継がれている。占術という人智の及ばない特殊技能を前面に押し出しながら、土着的でごもっともな倫理的処世感を庶民に植えつけるため、運・不運を用いてちょっと脅かしてみる。運勢が悪い場合は、災難を避けるために、より良く生きましょうと「運勢転換の思想」を説く。
うーん、現在大人気の某女性占い師なんて、この方法をそのまま使っているような……。
それを知ってもなお、人々は承知で騙されつづける。自分で何かを選ぶことに疲れて、あえて古い価値観で縛ってもらいたい?
騙されることもひとつの娯楽なのかもしれない。それが盛んだった江戸という時代の豊かな側面を、少しだけ垣間見ることができた気分になる。