『ソウル・オブ・マン』

ソウル・オブ・マン

2003年 アメリカ
原題:THE SOUL OF MAN
監督/脚本:ヴィム・ヴェンダース
製作総指揮:マーティン・スコセッシ
出演者:スキップ・ジェイムスJ.B.ルノアー

今回観た『ソウル・オブ・マン』は、アメリカでの“ブルース生誕100年”記念事業の一貫で「THE BLUES Movie Project」の第1弾。ブラインド・ウィリー・ジョンソン、スキップ・ジェイムス、J.B.ルノアーなど、まるで神のようなブルースを歌いながら、幸せとは決して言えない人生を送ったブルースメンの姿が、「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」の時と同じように「記録」されている。

ヴェンダースの自由さは、このドキュメンタリーを、20世紀音楽を代表して宇宙船にもその音源が積みこまれたブラインド・ウィリー・ジョンソンが、宇宙から語りかける形で始めさせるところ。

ドキュメンタリーといっても、とりあげられた3人のブルースメンの記録は、ほとんど現存していない。だから半分以上は、再現ドラマと言っても良いのだけれども、1920年代の手回しカメラで撮影した成果なのか、まるで本当のドキュメントのように思える。

個人的には音楽を扱った映画の場合、映像や演出は、音楽の質に負けないレベルを保ちつつ、少し後ろにひいていて欲しい。そういう意味でもこの作品は、純粋に私の好みだった。

ともかく今回の主役はブルース。実を言えばブルースには、少し引け目を感じていた。今まで生きてきて、全く苦労がなかったとは言えないけれど、初期のブルースが産み出された土壌と、そこで繰りひろげられた苦難と貧困と差別の歴史を、私が完全に理解することは不可能だと思っていたから。

それでもこの映画を観たとき、たぶん思春期に次いで二度目の大混乱の中にいた私は、六本木のヴァージンシネマで、立派過ぎる椅子に妙な居心地の悪さを感じながら、少し小さくなって腰を下ろしていた。それなのに映画が幕をあけたとたん、三人のブルースメンの歌は、ヴェンダースの映像技術の力も借り、私をあっけなく「ひきずりあげて」しまった。

ブルースには、そういう力があるのだと思う。たとえ聴いている人々よりも、歌っているブルースメンたちの人生の方が、はるかにやりきれないものだったとしても。つらさをユーモアで包みこむ声と音楽、言葉の力が、強く心に響いた。

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