星の王子さま
作者: アントワーヌ・ドサン=テグジュペリ
訳:池澤夏樹
出版社:集英社
少し前になりますが、表参道のスパイラルで「池澤夏樹講演会」を聞いてきました。
今回の講演会のテーマは、池澤夏樹氏が新しく訳した『星の王子様』と最新刊『異国の客』について。
長いあいだ多くの人たちに読み継がれている『星の王子様』についての話はもちろん、農業に適した恵まれすぎた土地だから神様はフランス人をあんな性格(?)にしてしまったというジョークや、テオ・アンゲロプス作品の字幕翻訳の難しさなどについても聞けて、楽しい時を過ごせました。
手をかけて飼いならしてやらなければ、自然はワイルドになって人間と手を切ってしまうというのがフランス人をはじめとする欧米人の「自然観」。その自然観が、『星の王子様』にも色濃く反映されているのだとか。そこから欧米と日本との自然観の違いへと話は進みました。
また当時、「飛行機に乗る」ということは、まだ命がけの「開拓」でした。そのせいかサンテックス(サンテクジュペリのことを、親愛の気持ちをこめてこう呼ぶらしい)は、飛行機に乗ることと農業に共通点を感じ、人間にとって農業は一番大切なものだと感じていたそうです。
そうやって、池澤氏の穏やかな語り口で語られる『星の王子様』についてのエピソードは、どれもこれもが魅力的で、読んだことのない人は、きっと『星の王子様』を読まずにいられなくなったはず。私もそのひとりです。
買った本を、近くの喫茶店で一気に読み終えて、思わずため息をつきました。この本には、こんなに大切なことがつまっていたんですね。
池澤氏曰く、「何度も読んで、自分なりの解釈をしていくのだけれども、それでもまだ読み切れていない気がする。だから何度でも読みたくなる本なのだと思う」。
子供向けに書かれていながら、子供にはきっと読みこなせない。やさしくスラリと読めるけれども、実は書いていない部分にこそ、この本の言いたいことがある。確かにとても難しい本です。ただわからないところはそのままで、わかるところだけ読んでも、大切なものは残される。
特別なことをしたわけではなくても、普通に生きて自然に経験を積んでいけば、「大切なものは目に見えない」という有名な言葉が、この本を通してよく理解できるようになるはずだと思うのです。だから子供の頃にこの本を読んだという人にこそ、もう一度読み返して欲しい。なぜかそんなことを、お節介にも願ってしまいました。