ウディ・アレンの夢と犯罪
原題 CASSANDRA’S DREAM
製作年/国 2007年/英
監督:ウディ・アレン
出演:ユアン・マクレガー、コリン・ファレル、トム・ウィルキンソン
恵比寿ガーデンシネマにて
ウディ・アレンのシリアス映画のひとつ。
若い兄弟には、風采のあがらない父と違い、世界をまたにかけて活躍する大金持ちの伯父がいる。その伯父に影響を受けたか、兄はあぶなっかしい投資話にうつつを抜かし、弟はギャンブルに狂う。ついに兄の方は、魅力的だけど多情な舞台女優をつなぎとめるために見栄を張り、父の会社の金に手をつける。弟の方も、大もうけしたポーカーにはまって、ついに払いきれないようなあぶない借金をしてしまう。
ふたりは、大金持ちの伯父に頼み、助けてもらうことになったのだが、伯父はそれと引き換えに、信じられないことを兄弟に頼んでくる。
こんな究極の選択ではないにしても、借金は人格を変える。目の前の返済をなんとかするためなら、普段のその人の性格では信じられないことまでしてしまう。私たちの身の回りにも、それはよくある話。
完全犯罪のはずが発覚するのは、神が罰を与えたのではなく、罪悪感や犯罪がばれる恐怖のため、犯罪者自身が余計なことをするからだとよく言われる。そう考えれば、この兄弟がこういう結末に見舞われるのは、彼らが人間的な感情を持っていたせい。
決して悪人ではない兄弟が、踏み込んではいけなかった一線。そこをこの映画は、まるで昔のハリウッド映画のように、丁寧に積み重ねて話を進めていくが、センス的に古くならないのはさすが。でも、ウディ・アレンのシリアス映画は、知識や教養がありすぎて、頑なで重苦しい。でもそこがまた、たまらなく魅力的。
この結末は、ひどい悲劇だけれども、ただ兄弟の愛の物語としてとらえれば、絆が保たれたという点で救われている。困ったことに私は、この結末にほっとしてしまった。
金や名誉に振りまわされる人々の弱い心と、繊細な登場人物の心のやりとりを描いた作品で、なんていうことはない、見せ方が違うだけで、人気のあるウディ・アレンのコメディタッチ映画と、描きたいことはまるで同じ。
ところで、恵比寿のガーデンシネマ自体の感想を書いてあるウェブサイトがあって、「古くてイヤ」「いまどき予約制じゃないなんて信じられない」「飲食禁止の映画館なんてあるの?」とあってなんだか笑ってしまった。シネマコンプレックスでしか映画を観ないタイプの人には、古かろうか新しかろうが、自分の感覚にあったものを頑固につらぬくこのウディ・アレンの映画が、あまり必要がないだろうことは確か。