予告された殺人の記録
作者:ガブリエル・ガルシア=マルケス
訳:野谷文昭
出版社:新潮社
コロンビアの作家G.ガルシア=マルケス作『予告された殺人の記録』を読了。マルケスは、焼酎の名前にもなっている(えっそこ!?)マジック・リアリズムの傑作『百年の孤独』でもおなじみ。
てっきり再読だと思っていたのに、読めども読めども、何も思い出せない。どうやら小説の方は読んでなくて、映画しか観ていなかったらしい…。そしてあまりに昔で、映画の方も内容すら忘れている。
ある片田舎で村を上げての盛大な婚礼儀式が行われ、次の日に、ひとりの男性が殺される。しかしそのことは殺す側の双子が、誰かに止めてほしかったからか大っぴらに周囲に予告済み。本人と家族以外、村中の誰もがそのことを知っていたのに、偶然や無意識の悪意、逆に善意が裏目に出るなど不運が重なり、殺人は行われてしまう…。
『百年の孤独』とはまた少し違って、この作品は現実にあった事件を題材にしている。殺された男性の友人を話者として、一見するとルポルタージュ風に語られるが、こういう現実をモチーフにした短い小説の方が、マルケスの想像性の豊かさ、伏線の貼り方の見事さなど、小説の書き手としての圧倒的な「うまさ」を感じることができる。だから最後までルポルタージュ風に進んでも、十分読ませるのだけれど、ため息が出たのは現実とも幻想ともつかない最後の殺害シーン。あまりにも美しかったので。
コロンビアの田舎町に、私は行ったことがない。でも、地方に生まれ育ち、そこに適応できなかった人間のひとりとして、悪意がなくてもひとつの共同体が、よそ者や異端者を無意識のうちに葬っていくシステムは、わかりたくなくてもわかってしまう。胸の奥に眠っている複雑な感情を引き出される気分で、息を殺して一気に読み終えた。
マルケスもこの作品を、自らの「最高傑作」とみなしていたのだとか。読みやすくて短いのでマルケス入門書としても最適な一冊。