月の見える坂道

空に赤い月。真夜中に私はひとり、広すぎる坂を歩く。月は満月でも三日月でもなく、中途半端な幅。都会の空が似合うペーパームーンと違い、甘納豆のようにコロンと丸い形。
ただ無我夢中で、坂道を登る。月の斜め下には、逆向きに欠けた月がもうひとつ。双子の甘納豆だなと思う。坂はとても急で長く、どこまで行っても途切れない。
かなり高い場所まで来たらしい。左右に見えるのは、ただ星空ばかり。振り返って見た下界には、街の灯が煌めく。空の星よりも明るく。
坂はさらに急勾配になり、息があがって体がつらい。不安にもなってくる。自分の荒い息を聞きながら、(きれいな景色だな。ブログに載せなきゃ。写真に撮れないのが残念)と、景色とは似合わない妙に現実的なことを思った。
坂はまだ終わらない。体力も限界に近づいてきたのに、傾斜はきつくなるばかり。そそり立つ壁のようになった坂の斜面になんとかしがみつき、今や道のコンクリート肌が眼前にまで迫る。
負けないで、もうひと息。
私は坂に手をついて、斜面を這うように進む。双子の月ひと組だけが、私を見守っている。
精も根も尽き果て、震える手をようやく前に伸ばす。ブーツの爪先も滑り、もはや地面をとらえられない。
深呼吸ひとつ。がむしゃらに伸ばした手が、何かをつかんだ。それは分厚い板の断面のようなもの。
両手でその断面をつかみ、最後の力振り絞って、腕の力だけで全身引き上げる。
グンと体が持ちあがり、どうやら私は坂の「頂上」に辿りついた。

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