マリオ・ジャコメッリ写真展
THE BLACK IS WAITING FOR THE WHITE
東京都写真美術館にて
2013年3月23日~5月12日
仕事の手を一度止め、最終日の閉館間近に滑り込みで『マリオ・ジャコメッリ写真展』。
展示枚数が多い写真展だと、途中で疲れて写真の上っ面を視線が滑るだけになる堪え性のないタイプなのだけど、この写真展ではそんな瞬間は一度もなかった。
作品に吸い付くように、視線が離れない。
もうすぐ命が尽きる人ばかりがいるホスピスや、闘病末期のキリスト教信者が最後の救いを求めて押しかけるフランスの聖地ルルドなど、死との境にある被写体も多くいる場所が舞台で、抱えるテーマは重いが、ひきつけられてやまないのは、「写真そのもの」が持つ魅力のため。
白黒の素晴らしい写真や映像を観ると、カラー写真よりむしろカラフルと感じてしまうことがある。黒から白、逆に白から黒の間の数えきれない色のグレースケールに、神経が研ぎ澄まされていくのを感じる。
残念ながら、写真について語る言葉や技量のない私には、感じたことをただ並べることしかできないのがもどかしい。
ジャコメッリのカメラのファインダーを通すと、実際に映った光景の裏側にある秘めた真実が浮かび上がってくる。
たとえば、ルルドを訪れる瀕死の巡礼者より、もはや死を受け入れたホスピスの人たちの方に、わずかに残された「生」がいきいきと感じられたり、幸せの絶頂のはずの恋人達が被写体なのに、すぐ壊れてしまいそうな儚さを感じたり。
イタリアの貧しい家に生まれながら、独学で写真を学び、印刷業を営んで生計を立て、最後まで「アマチュアカメラマン」の立場を通したジャコメッリ。
シュールな作品の方も有名で、強いコントラストを感じる写真の多くは、どんな重いテーマを扱っていてもどこかスタイリッシュで現代的。それなのに写真特有の「古めかしさ」や詩情の方も、同時に備えている。
いつもながら時間に追われての鑑賞だったが、できるなら一枚一枚もっと時間をかけて眺めたかった。こういう写真展を観ると、美術や写真の関係者だけはなく、いろんな職業や立場の人の感想を聞いてみたくなる。