苦役列車
作者: 西村賢太
出版社/メーカー: 新潮社
発売日: 2011/01/26
西村賢太の『苦役列車』を読了。この主人公よりもはるかに優遇された人生を送っているはずなのに、その「劣等感」に妙な親近感を感じてしまうのはなぜ?
父親が性犯罪を犯したことがきっかけで、人生の落伍者になりかけている二十歳そこそこの青年が主人公。主人公は、すぐにお金をもらえる日雇いの仕事に慣れてしまい、そこから這い上がることができなくなっている。お金がなくなると、無一文のまま日雇い仕事の送迎バスに乗るような行き当たりばったりの毎日。
アウトサイダーを気取るほどの余裕もなく、社会を批判するほど高潔でもない。本当は「上の世界」に憧れながら、自分はここにいるしかないのだと言い訳し続ける情けない日々。
最近は私小説と銘を打って自分を題材にして書いても、私小説になり切れない作品が多い中、よくも悪くも見事に私小説の系列。
自分を美化することも正当化することもない登場人物を描ける。そんな作家として必要な資質を、持っている作者だと感じた。