悪童日記
2013年 ドイツ・ハンガリー合作
原題:LE GRAND CAHIER
監督:ヤーノシュ・サース/原作:アゴタ・クリストフ「悪童日記」
出演:アンドラース・ジェーマント、ラースロー・シェーマント、ピロショカ・モナムール
フォーラム福島にて
原作は、五十歳を過ぎてからフランス文壇にデビューした亡命ハンガリー人女流作家アゴタ・クリストフのデビュー作。乾いた簡潔な文章、美しい双子、田舎での両親と離れての過酷な生活、何もかもが狂った戦争末期の社会。読者はそれを、双子の書いた「真実しか記さない」はずの日記として読む。
そう謳ってあっても、そこには虚実がちりばめられ、読者はどこかで、日記の全てが真実という訳ではないと薄々感じながら読み進める。そもそもこの本は、作者が移住したフランスの言語で書かれ、たぶんあの国だなぁと想像はできるけど、舞台となった国も戦争の敵国の名も、どこにも記されていない。
とはいえ、映像にすれば、話す言葉や衣装で、それはだいたいわかる。国はハンガリー、支配しているのはナチスドイツ、解放軍はソ連。
あらゆる苦難を潜り抜けただろうアゴタ・クリフトフに比べると、この監督の描く世界は、少しナイーブで感傷的。しかしそのお蔭で、カルト映画になることから逃れ、残酷だけど美しく、奥深い作品に仕上がっている。
親の言いつけを守り、聖書に読み書きを学びながら、日記を綴る双子には、いびつでもはっきりした倫理観がある。しかし彼らが預けられた名うての悪女である祖母「魔女」が、それほどの悪人には思えなくなってくるほど、戦時下の「普通の社会」は狂気に満ちていた。その中で彼らの倫理観を発揮すれば、結末はたちまち残酷になる。
戦争中なら、このくらいのことは、実際にあったかもしれない。原作と違い映画の方は、戦時下にあったかもしれない現実と感じられ、観終わった後気持ちが塞いだ。
何より印象深いこの双子。美少年だからというより、この年齢で、こんな目ができるのがすごい。地獄の縁を覗いたことのある眼差し。それでいて、瞳の奥に秘めた感受性や優しさも醸し出され、忘れ得ぬ魅力に満ちている。