グロリア
1980年 アメリカ
監督・脚本:ジョン・カサヴェティス
撮影監督:フレッド・シュラー
音楽:ビル・コンティ
出演: ジーナ・ローランズ, バック・ヘンリー
サヴァイバルにまるで適さない私なのに、画面のなかのタフな女性に憧れてしまった。
名前はグロリア。クールで嘘がなく、曲がったことは許さない。男たちの弱者切り捨ての論理とは、また少し違ったレヴェルで筋を通す女。子供は大嫌いだけど、子供を一人前の人間として扱うまっとうさ。いざというときの、すごい決断力。いろいろあっただろう人生を、悔やんだり隠したりしない潔さ。
なんて格好いいんだろう。この映画を観ると、オバサンになることが、不思議に怖くなくなる。でも彼女のようになることは、多分絶対にできない。今の彼女の見事なスタイルの影には、いくつも積み重ねてきた悲しみや試練があるだろうから。
ウンガロの激しい色彩の絵画から、唐突に映画ははじまる。甘さのない緊張感に満ちた画面に、グロリアも唐突に現れる。
そこは、いまやマフィアに襲われようという会計士の部屋。危機を察した両親が、たまたま訪ねてきた友人女性・グロリアに預けた少年以外の家族全員は、あっという間に惨殺されてしまう。苦手な子供をあずけられ、あげくの果てに誘拐犯とまちがわれながら、グロリアと少年は、不仲のまま逃避行をはじめる。殺される確率の方がはるかに高い、八方塞がりの逃避行を。
あっという間に天涯孤独になってしまった少年の心を、自分が絶望から救っていることに、グロリア本人も気づいていないだろう。 ニューヨークのブロンクスからハーレム、アッパー・イーストサイドへ。特に地下鉄でグロリアと少年が捕まりそうになったとき、女性と子供に大勢でなにしやがるんだとばかりに、まわりの乗客がマフィアの手下たちを、協力して羽交い締めにするシーンが印象的だった。下町気質は、世界のどこでも変わらない。アメリカでも日本でも、今は失われているのかもしれないが。
マフィアのボスたちも認める「いい女」であるグロリアは、この作品を下敷きにして作られた『レオン』の主人公とは違って、驚くほどの強運の持ち主でもある。こんなに気持ち良く感激できることは、なかなかない。