ユリイカ(EUREKA)
2001年 日本
監督・脚本・編集・音楽: 青山真治
プロデューサー: 仙頭武則
撮影: 田村正毅
出演: 役所広司/宮崎あおい/宮崎将
たまに眠ってしまう映画がある。とはいえそれは、私にとって誉め言葉で、眠ってしまうほど、心地よい体験だったということ。
この映画がはじまったとき、これは眠れるかもという予感があった。しかし実際は、眠れそうなのに決して眠れないという、不思議な体験をさせられることに。綱渡りのような緊張感が、最後まではりつめていた。
モノクロ撮影したネガを、カラーフィルムにプリントする「クロマティックB&W」という手法で創られた映像は、白黒ほど厳密ではなく、あちらの世界とこちらの世界の境目のように曖昧な色彩。
その静かな色彩の下で、映画自体はざわざわと、風のやまない森のように、つねにかすかに騒がしい。バスジャック事件、連続殺人事件、ひきこもり……。今風のキーワードが、次々と出てはくるが、それらとしっかり向きあって、登場人物たちを無責任に放り投げたりはしない。
少女が声を取り戻すことは、新しいはじまりを予感させる。しかし少なくても、主人公である元バス運転手・沢井が、「社会復帰する」ということには、決してつながらない。
主人公たちは、社会の内側に置かれてはいても、冒頭のバスジャック事件以来、どこかで社会の外へ出てしまっている。もしくは社会と呼ばれる場の周縁を、グルグルまわっている。
これからも、彼らの状況はきっと変わらないのではないか。むしろ悪化するかもしれない。そう確かに、「社会的に」は。
それなのに、抱いてしまうこの希望は、いったい何なのだろう。
この映画が最後に見せる「希望」は、私たちが営む社会よりも、おそらくもっと高いところにある。社会の内側にいながらにして、外側からそれを眺め、本当のことをすくいあげた映画にも思えた。
現代日本映画の流れにおいても、エポックメーキングとなる作品ではないだろうか。それなのに、上演時間の長さのためか、あまり観てもらえていない様子。なんだか悲しい…。
タイトルである「ユリイカ」が、ジム・オルークの同名曲に由来することもあり、咳の音さえも(!)、まるで音楽のように感じられる映画でもあった。