『戦争論』

戦争論

多木浩二 著
岩波書店 刊

この「戦争論」は、美術評論家として知られている多木浩二さんが、なるべくわかりやすく戦争について書いた本。極めて客観的に書かれたこの本を読み進めると、戦争がどうやって起こるのか、どうして止められないのかというシステムが、次第にわかりはじめる。そして背筋が寒くなる。

「過去の戦争の記憶が確実に希薄化していく一方で、戦争の闇がいつの間にかまわりに立ちこめているという現在の状況を認識する方法を見出してみよう」(p.6)

感情的な戦争の話に耐えられないという、身勝手な繊細さを持つ若い人(かつての私も含む)には、戦争がどんなに悲惨かを強調する刺激の強すぎる論調より、こういう風に戦争が起こるプロセスを示した方が、より効果があるのではないだろうか。少なくても、この本を読んで、「戦争? 関係ないよ」という気持ちにはならない。

政治的な思想の偏りがなく、教科書などよりはるかに客観的なので、戦争の入門書(?)として最適な一冊。

戦争と一言で括っても、実は時代や状況によって、まるで違うシステムを持つということも、知ることができた。

特に最後の章「二十世紀末の戦争」は、戦争がいつ自分の周りにたちこめてもおかしくないということを、痛切に感じさせてくれる。敵が誰かはっきりとせず、誰を攻めて良いのかわからないのに戦争がはじまる…。想像するだけで、背筋が寒くなってくる。

あとがきに書かれた言葉も、強く印象に残った。

「書きはじめると不思議なことが起こった。戦争づけになった絶望的な時代の世界を相手に考察しながら、私は自分が、身体の向きをはっきり未来の方に向けはじめたのを感じた。そうしなければこれほど暴力的でなにも生まないカタストロフには取り組めなかった。可能なかぎり平易な言葉で書こうと努めたが、この本は自分が世界を生きることに結びついた仕事だった」

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