大ゴッホ展 夜のカフェテリア

福島県立美術館にて
2026年2月21日(土)〜5月17日(日)
福島県立美術館ホームページ
大ゴッホ展公式サイト

阪神・淡路大震災から30年、東日本大震災から15年。それぞれの復興を願い、神戸・福島・東京と巡回する待望の大ゴッホ展。

どれだけ「大」かと言えば、密度のかなり高いこの展覧会が画業の前半にすぎず、来年には後半が控えているほど。とはいえ、ゴッホの画家活動は、短命なこともあってわずか10年ばかり。それにもかかわらず、これだけの作品を残せたという事実が、ゴッホが並外れた存在であることをあらためて示している。

展示はすべて、ゴッホの大コレクションで知られるクレラー=ミュラー美術館の重要な所蔵品から。芸術家として一歩を踏み出したゴッホが、試行錯誤を重ねながら、やがて独自の表現と色彩を見つけるまでの過程を、一枚一枚の絵を通して丁寧にたどる。

バルビゾン派やハーグ派の影響が色濃いオランダ時代の素描や絵画には、生真面目さと頑なさすら感じる。でもなにかきっかけを見つけた途端、新しい要素を取り入れながら、見事に作風を変える様はさすがに非凡。また、当時の色遣いは、パリ時代以降とはまるで違うが、徹底して暗いながらも美しく、すでに色彩の才能の片鱗を見せている。

貧しい労働者階級の人々をモチーフとした作品では、影響を受けたハーグ派の人々とまた少し違う向き合い方で、労働のつらさ、苦しみ、人生の陰影まで、丁寧に掬い上げようとする姿勢が見て取れる。ニューネンにある古い塔をモチーフにした作品群に、不思議と心惹かれた。ゴッホが持ち続けた「地に足がついた信仰」が、垣間見られるからかもしれない。

その合間には、ハーグ派のイスラエルスやバルビゾン派のミレー、風景画のドービニー、アムステルダム印象派のブレイトナーなど、ゴッホが影響を受けた画家の作品も展示されている。

弟の美術商テオの助言でパリに向かってからは、ルノワールにモネ、セザンヌ、ピサロ、ロートレック、ベルナール、スーラ、シニャック、ゴーギャンといった印象派オールスターたちの作品や、日本の浮世絵などに触発されながら、あのゴッホ独自の表現や色彩へと近づいていく。

今回の目玉は、なんといっても『夜のカフェテリア』。本来国外持ち出し禁止の同作品が、特別に日本で観られることや、本当に夜に描かれたという背景だけでなく、この作品には、パリに行ってから獲得した構造的な筆遣いやカフェの眩しさを表す鮮やかな黄色、ゴッホの代名詞とも言える夜空の描き方など、ゴッホの魅力が詰め込まれている。

とはいえ、そこはさすがに人気作品。まるでルーブル美術館におけるモナリザ状態で、並んでもなかなか近づけない。でもここはがんばって(私は体調不良でがんばれなかった…心残り)、夜をそのまま写しとった光と色彩の妙を、じっくり堪能したい。

本展に比べると、めっきり人が減ってしまう常設展での「2026年第1期コレクション」には、本展との連動企画『「白樺派」と大正期洋画:ゴッホに憧れた日本人画家』もあるので、スルーはもったいない。岸田劉生や木村荘八、長谷川利行など、近代絵画を代表する画家たちが、ゴッホに影響を受けた作品の展示は、同じようにゴッホに心酔しても、影響を受ける部分がまるで違っていておもしろかった。

個人的には、対照的な性質を持ちながら、同じ時代を短い人生で駆け抜けた村山槐多と関根正二の作品が、ゴッホの内面の方を一番色濃く受け継いでいるように思えた。

その他資料として、ゴッホ書簡集の翻訳本や、当時複製図版が掲載された『白樺』の複製版、『現代の洋画』なども。

すっかり疲れてしまって、売店では図録しか買えなかったが、当展覧会の図録は、クレラー=ミュラー美術館館長の解説をはじめ、読み応えがあってわかりやすい。この値段だとかなりお買い得。

ゴッホが素晴らしい画家と知るには十分な作品群でも、これから先が楽しみなところでこの展覧会は終わってしまう。続きは、来年2月から今回と同じ3館で行われる『大ゴッホ展 アルルの跳ね橋』で。