『ソフィ カル ─ 限局性激痛』(1999-2000)

ソフィ カル ─ 限局性激痛1999-2000

原美術館にて
SOPHIE CALLE EXQUISITE PAIN
東京都品川区北品川4-7-25(当時)
1999年11月20ー2000年2月27日

苦しかったり悲しかったりした感情を、どうやったら、客観的に見つめて作品にできるだろう。 その過程を晒しながら、それ自体を作品にしてしまった展覧会。

作者であるソフィ・カルが、あまり好きじゃなかった日本への留学の末、自国フランスへ置いてきた恋人に、下手な嘘をつかれ捨てられてしまったのが、いまから15年前。

その後彼女は、厄払いのため、その体験を、いろんな人に話すことにする。その代わり、相手にも、いままでで一番苦しかったことを、話してもらう。

そんな前提のもと、厄払いの過程で聞いた各人の苦しみが、やや感傷的な失恋話と交互に日本語で展示されていた。

ソフィ・カルの失恋話は、グレーの布地に日本語の明朝体で縫いとられていて、他の体験は、白い布地にグレーの刺繍。各布地の上には、話の内容に関係する写真が一枚飾られている。

失恋話、苦しい話、失恋話…という執拗な反復に飽きかけた頃、気づくと、ソフィ・カルの体験の方は、土台となったグレーの布地の縫い取りが、布地とほぼ同じ色の糸で行われるようになり、徐々に記憶が薄れて悲しみも風化してきたことを示す。

他人ごとのように作品を「読んで」いくうちに、いろんな感情が波のように生まれては消え、作品との距離が離れてはまた近づく。そして一度に、一週間くらいの感情の移り変わりを、体験した気分になる。

どうやらそれは、偶然ではなく、仕組まれたことらしい。そのことが、少しだけ怖かった。

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